渋谷の代々木上原地区は大山町をはじめとして、旧屋敷町の面影を残す美しい住宅地であったが、主に相続税の悪しき影響のため、近年かなり騒々しい界わいになってしまった。戦後東西に通された井の頭通りは、それまで駅から放射状に拡がっていた商店街の道路パターンを無残にも切り裂き、住民のための道路というより、主として富ヶ谷方面と環状7号線を結ぶ抜け道として通過交通に利用されている感があった。それが都市計画道路の事業決定により、2倍以上の幅員にまで拡幅されることが決まった。ますます交通量が増える事は致し方ないとしても、この決定により、周辺の土地はさらにズタズタに分断される事になってしまった。今回与えられた敷地はその典型で、旧商店街道路に対し垂直に構えていた矩形の敷地は三角形に分断され、住民は立ち退きを余儀なくされた。今回我々に依頼された設計プログラムは、この変形した土地にデザイン系のスタジオオフィスを建てるというものであったが、その中で如何に合理的で、かつ代々木上原の顔ともなり得る品格のある建物を設計し得るかが問われた。
我々が計画のプロセスの中で留意した点は、先ず今回起きた行政の暴力的な「事件」を如何に強く形態的表現の中に落とし込むかという点であり、次に、今後同様の建物が立ち並ぶことで得られる新しいストリートエッジに対し、何かそれをリードするようなデザインプロトタイプが提案できないかという点であった。打放しコンクリートの平滑な面を接道面一杯にまで出来るだけ確保し、エッジを可能な限りシャープに表現した事、トラスウォールによる球状のペントハウスの断面を面一のコンクリート面で強調した事により、まるで敷地をナイフで切断した様な行政の暴力性を幾らかでも表現できたと思っている。また、この建物によって強調された軒(コーニス)のラインが(道路斜線により自動的に決まるのではなく)他の建築家達に自主的に順守される事、そして二次的要素として、ペントハウス状のスカイラインの形状が各々の建物の個性を表現しあう様なバランスの取れた街並みやストリートエッジが形成されてゆく事を強く望んでいる。