都市の記憶
伊東市は古くから温泉街として栄えた事で有名であるが、市街地は主に観光客の歓楽街として形成されてきたといってよい。市内のアーケード街は一時ほどの活気は無いものの、他の地方都市に比較すればまだ賑やかといえる。一方で昔3軒以上あった映画館も今は存在しないというように、特に若い年齢層にとっては殆ど魅力の無い街になってしまっている。
今回の敷地は伊東市内のアーケードのある商店街の端部に位置していた。もともとあった映画館が焼失し駐車場として使用されていた場所に、公的機関による不燃化事業の融資金を得る事により3世帯の住居と店舗による複合用途のプログラムが設定され、我々に設計が依頼されたのである。最上階に母親、3・4階に息子夫婦2世帯の住居が各々独立した玄関を持っているが、特に3・4階は一般のマンションのようにフラットとなることを避け、メゾネット形式でお互いの世帯の領域が立体的にかみ合うよう平面、断面が慎重に計画された。
低層2階は店舗空間であるが、1階前面部分に半公共的なプラザを設け、これに対して1・2階が取り囲むような配置がとられた。特に、昔映画館があった事の記憶を呼び戻すために、外壁にはパンチングメタルによるスクリーンが復元され、イベント時には映像が投影されるように意図されている。
建物全体の意匠を、スクリーンと対応するようにメタルを中心としたハイテックなイメージでまとめ、商店街の入口ゲートとしてのランドマーク性を強調した。